香川県議会で検討されているゲームやネット依存症対策に関する条例の素案が話題になってますね。
様々な観点から考えることができると思いますし、個人的にはこれほど理解に苦しむ条例もなかなかありません。今回は、噂に流されるのではなく、条例素案の内容と根拠を確認し、最後に「実効性」という観点での法的問題について少し触れてみようと思います。

思い立ったなぐり書きなので、乱文ご容赦ください。

香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)素案

ゲーム利用時間制限やネット依存症の対策の条例素案は、正式には「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)素案」とされています(以下、「本件条例素案」と言います)。
まずは、本件条例素案の特に話題になっている利用時間制限条項と、その他主要な条項を抜粋してご紹介し、次項で本件条例素案に至った根拠をご説明します。

取り沙汰されているネットやゲームの利用時間制限の条項

(子どものスマートフォン使用等の制限)
第18条
1項 保護者は、子どもにスマートフォン等を使用させるに当たっては、子どもの年齢、各家庭の実情等を考慮の上、その使用に伴う危険性及び過度の使用による弊害等について、子どもと話し合い、使用に関するルールづくり及びその見直しを行うものとする。

2項 保護者は、前項の場合においては、子どもが睡眠時間を確保し、規則正しい生活習慣を身に付けられるよう、子どものネット依存症につながるようなスマートフォン等の使用に当たっては、1日当たりの使用時間が60分まで(学校の休業日にあっては、90分まで)の時間を上限とするとともに、義務教育修了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10までに使用をやめるルールを遵守させるものとする。

具体的に話題となっているのは主にこの18条でしょう。
1項では家庭におけるルール作り、2項ではそのルール作りにおける時間制限を規定しています。

実は、香川県(主に県教育委員会)では今回の条例素案の前から、「スマートフォンやゲーム機等の使用の適正化に向けた共通ルール」と称して、「我が家のスマートフォンやゲーム機等の使用ルール(チェックシート)」といったチェックシートを公開・配布しています。
(他の自治体にもあるのかもしれませんが、調査していません。)
参考:「スマートフォンやゲーム機等の使用の適正化に向けた共通ルール」

このことから、今回の条例及び利用時間制限の条項は唐突に出てきたものではなく、従来からあった動きをより厳格に制度化するものであるということが分かります。

時間制限以外の条項について

例えば、次のような条項が検討されています。

前文
インターネットやコンピューターゲームの過剰な使用は、子どもの学力や体力の低下のみならず睡眠障害やひきこもりといった問題まで引き起こすことなどが指摘されており、世界保健機関において「ゲーム障害」が正式に疾病と認定されたように、今や、国内外で大きな社会問題となっている。とりわけ、射幸性が高いオンラインゲームには終わりがなく、大人よりも理性をつかさどる脳の働きが弱い子どもが依存症状態になると、大人の薬物依存と同様に抜け出すことが困難になることが指摘されている。
その対策としては、国において、他の依存症対策と同様に、法整備の検討や医療提供体制の充実などの対策を早急に講ずる必要があるが、県においても、適切な医療等を提供できる人材などを育成するため、研修体制の構築や専門家の派遣等の支援に取り組むことが求められている。
加えて、子どものネット・ゲーム依存症対策においては、親子の信頼関係が形成される乳幼児期のみならず、子ども時代が愛情豊かに見守れることで、愛着が安定し、子どもの安心感や自己肯定感を高めることが重要であるとともに、社会全体で子どもがその成長段階において何事にも積極的にチャレンジし、活動の範囲を広げていけるようにネット・ゲーム依存症対策に取り組んでいかなければならない。
ここに、本県の子どもたちをはじめ、県民をネット・ゲーム依存症から守るための対策を総合的に推進するため、この条例を制定する。

(目的)
第1条 この条例は、ネット・ゲーム依存症対策の推進について、基本理念を定め、及び県、学校等、保護者等の責務等を明らかにするととに、ネット・ゲーム依存症対策に関する施策の基本となる事項を定めることにより、ネット・ゲーム依存症対策を総合的かつ計画的に推進し、もって次代を担う子どもたちの健やかな成長と、県民が健全に暮らせる社会の実現に寄与することを目的とする。

(基本理念)
第3条 ネット・ゲーム依存症対策は、次に掲げる事項を基本理念として行わなければならない。
1項 ネット・ゲーム依存症の発症、進行及び再発の各段階に応じた防止対策を適切に実施するとともに、ネット・ゲーム依存症である者等及びその家族が日常生活及び社会生活を円満に営むことができるように支援すること。

2項 ネット・ゲーム依存症対策を実施するに当たっては、ネット・ゲーム依存症が、睡眠障害、ひきこもり、注意力の低下の問題に密接に関連することに鑑み、これらの問題に関わる施策との有機的な連携が図られるよう、必要な配慮がなされるものとすること。

3項 ネット・ゲーム依存症対策は、予防から再発の防止まで幅広く対応する必要があることから、県、市町、学校等、保護者、ネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者等が相互に連携を図りながら協力して社会全体で取り組むこと。

この他、例えば6条では保護者の責務が1項~3項で定められています。
現在のところ罰則規定は設けられていません。

本件条例素案に至った根拠

これは私は全く知りませんでしたが、社会学者の井出先生のブログで拝見しましたのでご紹介します。
参考:井出草平の研究ノート「香川県ネット・ゲーム条例と久里浜医療センター」

井出先生によれば、本件条例素案は久里浜医療センターによる調査が大きく影響しているとのことです。
学業成績が落ちる、朝起きられない、昼夜逆転、家族関係の悪化などについて、それぞれ前文、3条や18条等に対応させていると分析されています。
参考:ネット・ゲーム使用と生活習慣についてのアンケート結果(概要)

井出先生の分析が正しいとすれば、元々スマホやゲーム機の使用時間について厳しい見解を持っていた香川県議会等が、この調査を受けて条例化に踏み切ろうとしている、ということなのでしょう。

本件条例素案の実効性???と法律上の問題点

実効性に疑問の声

本件条例素案について、検討委員会からは「実効性が不十分だ」として内容を見直す声が出ているというニュースがありました。
参考:毎日新聞「18歳未満はスマホ1日1時間」 香川県がゲーム依存対策条例素案 「実効性は?」
これによれば、複数の委員が実効性を疑問視し、これらの意見を反映させた素案を作るとのことでした。

本件条例素案に実効性をもたせることの法的問題

本件条例素案は国民の生活について強く介入する構造になっています。
国や自治体が国民の自由に対して介入することは、元来望ましいことではありませんし、それを防止するために憲法があると言うことができます。

おそらく、本件条例素案であれば違憲にはなりません。罰則規定がないからです。
ただ、もし「実効性をもたせる」というのであれば、最も有力な手段は罰則規定を設けることです。

しかし、スマートフォンやインターネット利用は今や私生活になくてはならないものとなっていると言っても過言ではないでしょう。
この点で、子供の利用を制限し、親にその管理義務を負わせることについて仮に罰則規定を設けるとするならば、違憲の疑義を免れることはできないと思います。

検討委員会に法曹や法学者は入っていなかったのでしょうか…。
なお、本件条例素案は1月中にパブリックコメントを開始する予定とのことです。

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